前回の続きを述べる。(前回示した図も参照して頂きたい。)
⑤流動比率は、1年以内に支払いをしなければならない短期負債(流動負債)の何倍の短期資金(1年以内に現金化される受取手形や売掛金、在庫、そして既に現金化されているお金)である流動資産を持っているかを示す指標である。従って、その数値は100%を超えて高いほど安全性が高いと言える。
流動比率は第2次大戦後、200%以上が望ましいと言われた。これは’30年代の大恐慌から景気回復(不況は戦争によって回復する)期まで生き残ったアメリカの企業を調査したところ、流動比率が200%以上であったという統計的事実からきている。その数値が戦後日本にそのまま入ってきて、流動比率は200%以上必要となったのである。
しかし、日本の企業は戦後、ほとんどの企業が自己資本はほとんど無いところから復活の道を歩み始めたので、流動比率を200%という高い数値に維持することは困難であったため、とりあえず130%を越えることが目標値となった。その数字が一人歩きして、現在でも、流動比率は130%であればよいとする専門家も多い。
しかし私の経験からは、現金取引が主体の小売店や飲食店で130%以上、掛け売り主体の企業では180%は欲しいというのが、企業の資金の安全性を考えたときには必要と考えている。
現金商売で順調に利益をあげている会社は、流動比率は200%は容易に超えている会社が多い。流動比率が100%以下の会社は論外である。
⑥固定比率は、現金化に長い時間を要する固定資産がどれだけ自己資金(企業が清算するまで返さなくていい資金)でまかなわれているかを表す。この数値が100%ということは、固定資産はすべて、自社の資金でまかなっているという状態である。
固定比率100%は理想であるが、企業が成長するためには、時には銀行のお金を長期に借りてでも固定資産を購入したいときがある。長期の借入金が会社に入ってくると、固定比率は当然100%以上になる。時には一時的に固定比率が200~300%を超えることもある。
しかしこのときでも、企業の資金の安全性を端的に表すBSチャートの階段差はシッカリと維持されなければならない。銀行から長期の資金を借りて設備投資をしたときの階段差は、⑦固定長期適合率によって示される。
BSチャートを見てもらえば分るとおり、⑦固定長期適合率は、流動比率と裏腹の関係にある。流動比率が100%を超えているときは、固定長期適合率は必ず100%以下である。この数値は高くても80%以下が望ましい。
これまでに説明した、流動比率、固定比率、固定長期適合率を良好な理想的な数値にするためには、30%を越える⑧自己資本比率が必要である。
「絶対つぶれない中小企業の財務戦略」という連載が10年ほど前、日経ビジネス社のメールマガジンにあった。著者は「100万分の1グラムの歯車」(中経出版社)という本の著者でもある、樹研工業社長 松浦元男さんという方である。
松浦さんは絶対に潰れない中小企業の最低の条件として、自己資本比率40%をあげている。私は30%が普通の会社の最低条件としており、毎回のセミナーは、まず何年で30%の自己資本比率を達成するかという計画を作ることを目指す勉強会としている。
自己資本が30%を超えて初めて、不況に強い安全な一人前の会社といえる。30%を超えると、40%、50%は、射程距離になってくるし、さらには、無借金会社への道も見えてくる。
しかし、私は必ずしも無借金会社を作ることは勧めない。自己資本比率50から60%くらいを維持していれば、余程のことが無い限り企業の維持や安全、勝ち残りは十分に可能である。むしろ、会社が順調なときほど、銀行との付き合いを良好に保つことは、万一の、まさかというときのリスク管理に必要なことである。
以上に説明した数値を参考にしながら、わが社の安全と成長を目指した計画を作り、健康な経営を行って欲しいと思う。